2002.1.2  激流ダイビング
 2001年12月25日、サイパンでこの日だけボートダイビングをした。
前前日に台風が来ていたため、海は荒れ気味だが、インリーフには波はそれほど立っていない。
マダラトビエイがホバリングするポイントがあって、多いときには70〜80匹になるという。
20〜30匹群れていると、壮観だということなので心が踊っていた。

 ここのマダラトビエイは10年以上前から発見されていたそうだが、ダイバーを近寄らせないので、
ダイビングポイントには一昨年までなっていなかった。それがなぜか昨シーズンからダイバーが側に
寄れるようになった。流れがあるときは逃げないそうで、触れるくらいまで近寄れるという。
 このとき100ミリマクロレンズしか持っていかなかったのだが、ダイビングサービスでニコノス15ミリ
を借りることができた。群の左側、できればやや前方に行って、下から見上げるようにして撮ろうなどと
考えていた。

 乗合の大型ダイビングボートには、私たち3人(2人がお客、1人がガイド)のほかに韓国の人たちが
15人くらい(うちガイドが4人)とボートスタッフ2人だった。
 港からポイントまでは5分ほどで着いた。港から見えるインリーフのポイントに、マダラトビエイが群れて
いてくれるんだから、おいしい話だ。幸い流れもあり、エイに近寄れそうだ。ボートの上が混雑していたことと、最初に入っておもしろいものが見れるといいなという思いから、ボートの左舷から一番目にジャイアントでエントリーした。
 ボートから海にジャイアントでエントリーする瞬間は、ダイビングの楽しさの一つで、一瞬にして広がる海中の世界のなかで「はるばるここまでやってきて良かった」と思う。

 だけど違う。今日は違う。そんなことを考える間もなく、ボートの船尾まで流されていた。カメラをボート上から
手渡してもらうために全力で水面を泳ぎもどった。カメラを差し出してくれたので、受け取ろうと手を伸ばすと
手が届かない。顔を水面につけて思いっきりフィンキックする。少し前へ進み、また手を伸ばす。10センチ届かない。カメラの受け渡しは、もし水中に落としてしまうと二度と戻ってこないかもしれないので、がっちり私がつかむ
までは、相手もけっして手を離さない。もう一度トライするが5センチ届かない。手を伸ばすと上半身も立ち気味に
なり、水の流れをまともに受けてしまうのだ。次のトライでニコノスをしっかり握った。

 ヘッドファーストで垂直に水底を目指した。しかしこれほどの激流を予想していなかった私は、BCの空気を完全には抜いていなかった。このまま力任せに潜るか、一度体勢を変えて空気を抜いてから潜るかの選択だ。空気を抜くことにした。体を起こすと思っていたとおり、一気に流された。ゆっくりしていられない。一秒間だけ空気を抜き、また頭を下にして水底を目指した。水底にたどり着き、水面を見上げた。「見えるところにボートがいてくれ」
ボートはあった。透明度は良いので、自分がボートの全長分だけボートの後ろにいることがわかった。

 水底は砂地で手の平をシャベルのようにして砂に刺すが、そのまま体は流れで後退する。さらに先の砂に手を
刺し、フィンキックもして何とか前へ進む。ときどき岩があるとつかまって一休みする。ボートの下まで来た。まだ他の人は誰も来ていない。激流のなかで、一人待っていた。(つづく)


2002.1.14 激流ダイビングのつづき
 ガイドのHさんが見えた。砂に手を刺しながらHさんのところまで行った。お客のKさんを待っていた。Kさんが後ろから現れた。Kさんはイノンのハウジングにアームが2本にストロボ2つつけているから、かなりの水の抵抗のはず。しかしこの激流のなか、3人が水底で集合できたのだから、もう安心。マダラトビエイは何匹いるかな。
 流れに逆らって、Hさん私Kさんの順でマダラトビエイを目指した。砂に手を刺し、フィンキックをして少しずつ進んだ。ニコノスを流したり、水没させたりしないように、左手で抱えるようにして持ち、右手は砂を刺して進んだ。実は、流れのある場所のダイビングは嫌いじゃない。ドリフトで空を飛んで鳥になるのは気持ちいいし、流れに逆らう時は魚も流れに逆らってみんな同じ方向を向いているのがとても綺麗。何か大物が出てきそうな気もするし。

 しかし、流れは一向に弱くならない。砂が飛ばされて飛んでくる。透明度は良いはずなのに、砂のせいで先はあまり見えない。横を向くとマスクに水が入ってくる。両手で抱えるくらいの岩につかまっても、ぐらりと動く。
 20mほど進んだところでHさんが岩を背にして、後ろ向きになった。ボードに、「ダイビングをここで中止します。流れのせいで地形が変わっていて、マダラトビエイポイントにたどり着くかわかりません。マダラトビエイもこの流れでは、いないかもしれません。確実に船に戻るために水面に出て戻りましょう。」と書いた。すぐに納得できた。前へ進む力は残っていたけど、ダイビングは所詮遊び。無理してすることじゃない。

 Hさんが岩から手を離しふわっと浮いた。私とKさんも続いた。この瞬間が楽しい。今まで手や足の力を使って流れに逆らってきた。そして手を岩から離し、全身の力を抜いて空を飛ぶ。中層を流されながら、スーパーマンになったり、大の字になったりしながら海底の景色のうつり変わりを楽しむ。

 しかし今回はドリフトではない。船は追いかけてきてくれないから、自分たちで戻らなければならない。いつものように楽しんでいるわけにはいかなかった。流されながら海底を見ると、韓国の人たちが3人流れに逆らって進んでいた。さらに船のアンカーロープに10人くらいがぶる下がっていた。アンカーロープにつかまりながら、潜行しているのだった。
 「あの人たち大丈夫かな」
私たちは3人で経験本数も400本くらいだが、韓国のグループは15人もいて、中にはビギナーもいる様子だったからだ。

 私たちは、船を発見し船首に近づき、側面にそってはしごがあるところまでたどり着いた。はしごをつかみそこなうと、そのまま遠くへ流されてしまうので、しっかりとはしごをつかんだ。流れが強すぎてフィンを脱ぐことさえ苦労した。ちょうど走行している船につかまっているのと同じだ。私、KさんHさんの順に船に上がった。なぜかおかしさがこみ上げてきた。
 韓国のグループが戻ってきた。船から何本かロープが投げられ、それにつかまっていた。しかし、そのロープをたぐりよせて船に近づくことがなかなかできない。一人の女性のダイバーはなぜかBCを脱いでしまっていて、スタッフと思われる人が2〜3人ついてひっぱっていた。そのスタッフの一人が韓国語でなにか叫んでいる。この状況での韓国語はものすごい緊迫感を生み出していた。はしごのところまできたが、その女性は自分で上がれない。というより上がろうとしていない。船のスタッフが船上からひっぱり、なんとか船の上に引きずりあげた。大丈夫かなと思ったが、レギュレターはしっかりくわえていた。青ざめて呆然とした顔をしていたが、意識はあり命は大丈夫そう。良かった良かった。そのあともつぎつぎ韓国人ダイバーは船に上がってきた。
 「激流ダイビングのカードがあったら発行してもらえるかな」
そんな話をしながら船は港に戻った。 
トップページへもどる
2002.1.19  ジンベイザメ発見
 ダイビングクルーズ船ブルーシャークは、南マーレ環礁でのダイビングを終え、アリ環礁へ向けて外海を航海していた。2002年1月7日。
 「追い風だからそんなに揺れないよ」というブルーシャーククルーズ代表のきよこさんの話だったので、カメラの
メンテナンスとフィルム交換をした。船はいつのまにか揺れ始めていた。揺れないと言っても、やはり外海なのだ。これくらいの揺れは揺れに入らないということなのだ。(環礁内をクルーズしている時はそれほど揺れない。夜は静かなところに停泊して、エンジンを止めるので、揺れず静かでぐっすり眠れた。)細かい作業をしていたので、少し気分が悪くなっていた。

 アリ環礁に着いた。ダンゲティコーナーというポイントで今日2本目のダイビング。「気持ち悪いから早く海へ入ろう」船酔いをしているときは早く海中に逃げるに限る。ウメイロモドキに似たイエローバックの群、クマザサハナムロの群が視界いっぱいに右へ左へ向きを変えながら泳いでいた。モルジブというとジンベイザメやマンタ、マダラトビエイなど大物を期待するのであるが、グルクン系の群は他の海とスケールが違い「これぞモルジブ」と思っているのは、自分だけだろうか。岩のすきまにゴシキエビがいた。でかい。これだけでかいとなぜか、「食べたい」という気持ちにならない。ムスジコショウダイの群がいた。コショウダイがいると必ずシャッターを切る。好きなんだなコショウダイ。

 エキジットしてシャーワーを浴び、着替えてから食堂へ行くと、今一緒に潜った人たちが数人くつろぎ今までに潜った海の話をしていた。
 「コスメルはカリブ海の固有種ばっかりでおもしろかった。」
 「なまずの一種のおもしろい顔をした魚がいて、すっごく可愛いんだ。」
 「トラックっておもしろい?」
 「沈船とゼロ戦だね。おどろおどろしいよ。」
 「そういうのが好きな人はたまらないね。」

 船の階段を登ったり降りたり、走りまわったり、何か大きな声が聞こえる。
 「なになにどうしたの?えっえっジンベイザメが出た!」
 明らかに船の中の空気が変わった。「自分は今何をすべきなんだろう」頭の中を整理しながら、体を動かす。
 船酔いが残っていて、すこし気分が悪い。でもそんなこと言ってられない。
 「海水パンツは履いてないけど、短パンでいいや。」
 カメラを持ってデッキへ上がる。ブーツとフィンを履き、マスクを着ける。
 「しまった。シュノーケルがない。」
 ダイビングのときは、いつもシュノーケルは付けない。岩穴に顔を突っ込んで写真を撮るときに、シュノーケルが
岩に当たる。沈殿物が海中に漂いそのまま写真を撮ると、浮遊物いっぱいの写真になってしまうのだ。もうひとつの理由は、激流のときシュノーケルがビュンビュン揺すられるのが好きじゃない。

 シュノーケルは船室にある。おそらくスーツケースの中にある。スーツケースは鍵がかかっている。取りに行っているうちにジンベイはどこかへ行ってしまうだろう。シュノーケルはあきらめて、海に飛び込んだ。もう殆んど全員ジンベイを追いかけていた。

 ジンベイが見えた。念願のジンベイザメが自分の目で見れた。これは自然の海のなかのジンベイだぞ。いけすの中じゃないぞ。やっぱりでっかいな。などと思っていたらジンベイは小さくなってしまった。しぼんでしまった。そうじゃない。遠くへ離れていってしまった。しかし他の人たちはみんなジンベイと一緒に泳いでいる。自分だけが取り残された。もう一度追いつこうとフィンキックするが、息が苦しい。顔を水面に上げて呼吸する。もう一度ジンベイを捜すと、さらに遠くへ行ってしまった。

 情けない気持ちで水面に浮いていたら、ブルーシャークの小型ボートが来た。モルジブ人のクルーが船に乗れと言う。溺れていると思われたのかな。このままクルーズ船に戻されるのかな。心配しながらボートに上がった。
 ボートに乗るとジンベイを目指して走り始めた。やったやった。もう一度トライできる。ボートはジンベイの進路の前に出た。カメラを持ったまま海に跳びこんだ。「うわっジンベイがいる。それもこっちに向かってくる。シャッター切ろう。いやもっと近づいてからだ。でもストロボ使っていないからチャージ時間を心配しなくてもいいんだ。あっもう近くまで来ちっやった。枠に入らない。どうしよう。とにかくシャッター切ろう。よし1枚撮ったぞ。2枚撮ったぞ。あー行っちゃった。」

 水面で休んでいたらボートが来たので乗った。モルジブ人クルーが「また行くよ」と言う。ボートはジンベイの前へまわり、カメラを持って跳びこんだ。苦しいけど水中に潜り、ジンベイが来るのを待った。正面から写真が撮れた。そして水面休息。ボートが来て、上がった。もういいかな。頭が痛くなってきた。モルジブ人クルーは「また行くよ」と言う。ここでやめたら後悔する。と思い、三度水中へ。今度はジンベイが右に曲がって行っち
ゃった。そしてボートに上がる。ああ楽しかった。でも頭が痛い。気持ちが悪い。クルーは「行くよ」と言う。もういいかなという顔をすると、クルーは「何これくらいでやめちゃうのか」という顔をする。そんな顔をされると行かないわけにはいかない。4回目の水中へ。もうへとへとだ。なんだかわからないけど写真は撮った。そしてボートへ。ボートへ上がるのもけっこう体力がいる。フィンキックを思い切りして、持ち上がった瞬間両手でボートのへりをつかみ体を引き上げる。頭が痛い。気持ちが悪い。ボートはまたジンベイの前へ。「もうどうでもいいや」と海に跳びこむ。シュノーケルがないので呼吸するためにフィンキックするから、それが疲れる。またなんとか写真は撮った。そしてボートの上へ。「もう行かない」と断言した。モルジブ人クルーの目は「お前はよくやった。」と言っていた。
2002.1.27 モルジブのウツボ
 「ダイビングをしている」と人に話すと、「サメ見たことある?」「ウミヘビはいないの?」「ウツボに噛まれたりしない?」この3つの質問をいままでに何回されたことだろうか。
 「人を襲う可能性があるサメはいるけど、ホオジロザメとかタイガーシャークとかほんの一部のサメだし、めったに海の中で会うことはないんですよ。それにサメはスキューバの空気の泡が嫌いらしいし」
 「ウミヘビは沖縄などによくいるけど、毒を持っていても、口の中にくわえた獲物をしびれさせるものらしくて、人間がウミヘビの口の中に指でも入れなければ、噛まれることもないようです。」
 「ウツボはどこにでもいるけど、ウツボのほうから襲ってきたことはないですね。」
 いつも質問されるので、その答えも出来上がっていた。
 
 モルジブのクルーズで初めて見たジンベイザメの余韻が残っている翌日、マンタねらいのダイビングをした。「ランガリマディバル」というポイント。この時期かなりの確率で見れるということなので、期待してダイビングドーニに乗り込んだ。ポイントに着いてすぐ、きよこさんが「もうそこにマンタがいる」と指さした。ボートの上からも2つの黒い影を確認することができた。あわててエントリーする準備をした。マンタがどこかへ行ってしまわないうちに早くエントリーしよう。しかしその心配は必要なかった。エントリーするとすぐにマンタが視界に飛び込んできた。その後もゆったりと泳ぎ回り私たちの目を楽しませてくれた。近くまで寄ることが出来たので、写真を撮りまくった。さらにマンタの数は増え、視界に5〜6匹同時に入ってきた。フィッシュアイにも同時に5匹のマンタが入ったのだが、なんとフィルムがなかった。

 バディが「ウツボに噛まれた」と言ってきた。傷口は小さく、心配するほどではない。「めずらしいことがあるもんだな」と思ったが、マンタの乱舞に気持ちは戻っていった。
 「痛っ」と感じて、左手に目をやったら、ウツボがするすると自分の穴に後ずさりしていく。左手を見るとしっかりと
噛みあとがついていた。血が出ていた。水中で見る血は緑色と聞いていたので、血をしぼりだして確かめてみることにした。緑というより黒だった。でもよく見ると緑がかった黒だった。

 マンタを見るときに、体を安定させるために岩を指先でつかむ(というより「つまむ」というかんじ)。サンゴをつかむことはしないし、サンゴ保護のためグローブもしない。どうしても必要なときに岩を指先でつまむ。その指をウツボが噛んでくれたのだ。ウツボが穴から顔を出していれば、その近くの岩をつまんだりしない。ウツボは穴のなかに隠れていて、人が穴の近くの岩をつまむと出てきて、パクッと噛んですぐに穴のなかに逃げるのだ。なんてやつだ。
 ボートに戻ったら4人がウツボに噛まれたことがわかった。TAMAさんは指から血が流れていた。

 「ウツボに噛まれたりしない?」
 「はい。モルジブで噛まれました。」

 「サメ見たことある?」
 「はい。噛まれたこともあります。」と答えなくていいように気をつけよう。
海の中のひとりごと